【ミサキ】

「なあ京。俺を好きか?」

 

【京一郎】

「ミサキ?こんな時に何を……」

 

【ミサキ】

「好きか?」

 

【京一郎】

「……当たり前じゃないか」

 

【ミサキ】

「冷てえなあ」

 

【京一郎】

「好きでなきゃ幾ら神様だって許すもんか!

あ、あんな……事とか……。

もういいだろ、やるぞ! 何なんだよこんな時にっ」

 

【ミサキ】

「こんな時じゃねえと訊けねえよ」

 

そういえばそうだったかもしれない。

好きという言葉を交わしていただろうか。

 

覚えていない。

こんな時に、思い出せもしない。

 

互いが互いのものだとは、幾度も言い交していたけれど。

心を置き去りにしていなかったろうか。

 

でも今は悔いている時ではない。

 

後で幾らでも、ミサキ。

好きだと、恋しいと囁くから。

 

【京一郎】

「いん、まあ……聞けてよかったよ」

 

【ミサキ】

「ミサキ——?」

 

【京一郎】

「——あらかた集まったな。

いっちょやるぜ!」

 

[雷]

 

その一瞬、意識が飛んだ。

 

数えきれぬ光が筋になり、刀へと流れ込む。

光は体内に拡散し、京一郎と同化する。

 

【ミサキ】

「意識を馳せろ」

 

数百の。

数千の。

 

あるいは万の魂。

 

【ミサキ】

「命を思え」

 

それぞれの悲哀。無念。

怒り、虚無。

 

歓びそして愛。

 

【ミサキ】

「時空を越えろ。

お前なら出来る、京一郎」

 

【京一郎】

「——出来る……?」

 

【ミサキ】

「出来る」

 

それぞれの生。

それぞれの死。

 

一つとして同じものはない。

 

一つ一つの命が息づいていた街。

それが帝都。

 

大正の百万都市。

 

今、京一郎の中で。

ミサキと共に。

 

【ミサキ】

「繋げろ。

一つ一つと繋がる事を思え」

 

入れ組んだ糸の絡みを思い描く。

蜘蛛の巣のような、複雑な糸の集合体。

 

人との関わり。

社会や暮らしがその中にあった。

 

その中で人は生きていた。絡み合って。

 

【ミサキ】

「念じて伝えろ。

お前達はもう自由だと」

 

人は老いる。

肉体は朽ちる。

けれどいつか魂は廻る。

 

自由だ。

 

貴方達は、もう自由だ。

全てから解放されて。

 

【ミサキ】

「そうだ、京一郎——。

そのまま俺に、入ってこい……!!」

 

【京一郎】

「—————」

 

【ミサキ】

「六根清浄 天地浄め給へ——!!」

 

——ああ……。

 

幾百の、幾千の、あるいは万の魂が共鳴する。

京一郎とミサキの中で。

 

共鳴と混沌の中から、一つの魂が抜けていく。

澄んだ音をたてて、消らかな光を放って、

 

一つ。

またた。

二つ、三つ。

 

次第に多く。

 

今よぎったのは薫の笑顔ではなかったか。

雄真の静かな目差しではなかったか。

 

若き中尉がいる。

遺していく妻と子を案じている。

 

美しい女人がいる。

謎めく深い瞳が、誰かに似ている。

 

様々な面影が、京一郎の中を通り過ぎていく。

 

【千家】

「この……っ、させるか!」

 

千家浅草十弍階から走ってくる。

昴后による洗脳が解け、それでも彼は憂国の人だ。

 

選ぶ手段が人の道を外れていようとも。

 

【千家】

「霊送りを今すぐやめろ!

やめぬば斬る!」

 

【ミサキ】

「終わるんだよ、もう」

 

【千家】

「何だと……」

 

【ミサキ】

「心配すんな。

お前が受けてきた呪詛も全部浄めてやる。

……つらかったろ、ずっと」

 

【千家】

「……っ!!」

 

【ミサキ】

「お前だって、もう自由だ」

失ったものは戻れないけれど。

 

[足音]

 

【館林】

「千家。

全て終わって、変わるんだ。

……私も、貴様も」

 

【千家】

「……——」

 

呪詛を抜かれて昏倒する千家を、館林が支える。

全てをミサキの腕の中で見届けて、京一郎は目を閉じる。

 

【京一郎】

「————」

 

[納刀]

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